事業用物件を借りる場合と居住用物件を借りる場合でどのような違いがありますか?

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建物や部屋を借りる場合、事業用に借りる場合(借りた物件を店舗・事務所・倉庫等として使用する場合)と居住用に借りる場合(借りた物件に人が住む場合)があります。どちらの場合も、物件を貸す人(賃貸人)と物件を借りる人(賃借人)が建物賃貸借契約という契約を締結しますが、事業用の場合と居住用の場合で契約条項に異なる点が生じます。賃貸借契約を締結する際は、その契約が事業用なのか居住用なのかによって、下記の点に注意するとよいでしょう。

異なる点その1 建物の使用目的

通常、賃貸借契約には使用目的を記載します。賃借人はその物件を使用目的の範囲内で使用しなければならず、これを逸脱して使用した場合は用法違反として賃貸人から立退き請求されるおそれがあります。居住用の場合は「居住目的」との記載で足りる場合が多いと考えられますが、事業用の場合は様々な使用態様が考えられますので「店舗」「事務所」「倉庫」等のより詳細な使用目的の記載が必要になります。

居住用として借りた物件の一部を利用して小さなお店を開く、又は事業用として借りた物件の一室を従業員の居住スペースとして使用する、といった場合は注意が必要です。賃貸借契約書には、主な使用目的だけを記載すれば良いわけではありません。居住用物件の一部を事業用として利用する、またはその逆は、契約違反となる可能性が高いです。よって、契約時に明確に決まっていなかったとしても、「将来は物件の一室でお店をやってみたい」とか「もしかしたら事務所内に従業員の居住スペースを確保するかもしれない」等の思いがある場合は、賃貸借契約書にその旨を記載するようにすべきです。契約書に記載せずに後から賃貸人に使用目的の変更又は拡張を申し入れた場合、同意してもらえれば良いですが、同意しれくれない場合はお店をやりたい、従業員の居住スペースを確保したいといった希望を諦めるか、または別の物件を見つけて転居せざるを得ないことになってしまいます。

事業用賃貸借か居住用賃貸借かに応じた正しい使用目的を記載しないと賃貸借契約を解除されるおそれがある

異なる点その2 賃借人が支払う賃料の金額

賃借人は、物件を使用する対価として、賃貸人に対して賃料を支払わなければなりません。多くの場合、賃料は月額で計算され、毎月支払うことになります。

事業用賃貸借でも居住用賃貸借でも、賃料の金額は賃貸人と賃借人が合意して自由に決めることができますが、一般的に、事業用賃貸借では人や物資の出入りが多く使用方法も多様であるため物件へのダメージが多くなることを考慮して、居住用賃貸借よりも高額な賃料が設定されることが多く見られます

また、事業用賃貸借の賃料には消費税が課税されますが、居住用賃貸借の賃料には消費税が課税されないという違いもあります。物件の一部を事業用、一部を居住用として使用する場合は、事業用の使用に相当する部分の賃料に対してのみ消費税が課税されることになります。

事業用賃貸借は居住用賃貸借よりも賃料が高額となる傾向がある

異なる点その3 賃借人が賃貸人に敷金・保証金として預ける金額

賃貸借契約においては、通常、賃借人が賃貸人に対して「敷金」「保証金」等と呼ばれる金銭を預けます。これは、賃借人が賃料の支払を滞納したり、退去時に原状回復義務を履行しなかったりした場合に備えて、賃貸人が担保として預かっておく金銭です。

通常、敷金・保証金の金額は「賃料の〇か月分」というように設定されます。この「〇か月」の部分が、居住用賃貸借の場合よりも事業用賃貸借の方が長期間となることが一般的です。これは、事業用賃貸借の場合は物件を改装したり、物件へのダメージが強かったりするため、退去時の原状回復費用が高額になりがちであることが主な原因です。居住用の場合は賃料の1~2か月分であることが多いですが、事業用の場合は3か月分から6か月分程度、多い場合は10か月分程度に設定されることもあります。

敷金・保証金は、賃貸借契約が終了し、賃借人が賃貸人に物件を明け渡した後に返還されますが、未払賃料や原状回復費用がある場合はこれらが差し引かれた金額が返還されます。また、賃貸借契約によっては、敷金・保証金を返還する際にあらかじめ一定金額を差し引いてから返還する旨が規定されている場合もありますので、注意が必要です。

敷金・保証金の金額は事業用賃貸借の方が居住用賃貸借よりも高額となることが一般的である

異なる点その4 賃貸借契約終了時に賃借人が実施しなければならない原状回復の範囲

建物賃貸借契約が終了して賃借人が賃貸人に物件を返還する際、賃借人は物件の損耗を復旧して返還する(原状回復する)と規定されることが一般的です。原状回復といっても、契約時の状態に戻すというわけではありません。時の経過とともに物件が変化することは避けられませんので、物件を通常に使用する上で自然に生じた損耗については賃借人は原状回復する義務を負わず、賃借人の過失や、過度の使用によって生じた損耗のみ、賃借人が復旧する義務を負うのが原則です。もっとも、実際にはどれが自然な損耗でどれが原状回復の対象となる損耗かを明確に区別することは困難です。物件を返還する際に原状回復の範囲でトラブルとなることを避けるため、居住用・事業用を問わず、賃貸借契約において原状回復の範囲をできる限り詳細に規定することが望ましいといえます。

事業用賃貸借の場合、物件を改築したり内装に手を加えることも多くあります。その場合、賃借人が改築した部分や賃借人が取り付けた内装については、退去時に取り外さなければならない(または取り外すことができる)とするのか、そのままにしておいてよい(又は取り外してはならない)とするのか、契約終了時にトラブルとなるケースが少なくありません。また、事業用賃貸借契約においては、自然損耗や通常の使用によって生じた損耗も含めて賃借人が原状回復しなければならないと規定されることがあります。このような条項がある場合は、賃借人は特に注意が必要ですし、実際に復旧しなければならない範囲がどこまでなのかを賃貸借契約書に明記することが非常に重要となります。

他方、居住用賃貸借の場合でも原状回復の範囲を詳細に規定することは望ましいことですが、大きな改築や内装変更が行われることは少なく、退去時の損耗も当事者の想定の範囲内であることが多いため、原状回復の範囲でトラブルになるおそれは事業用賃貸借の場合ほど高くはないといえます。また、居住用賃貸借契約には消費者契約法が適用されるため、自然損耗や通常の使用から生じた損耗まで賃借人の原状回復の対象とする条項は無効となる可能性があります。

事業用賃貸借は居住用賃貸借よりも多様な原状回復が必要となるため原状回復の範囲を契約書に明示することが重要

賃貸借契約を締結する際は、その契約が事業用か居住用かを確認して上記の点に注意するとよいでしょう。

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