建物を借りた人(賃借人)はどのような義務を負いますか?

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部屋を借りて住む、事務所や店舗を借りて事業を行う、このような時に締結する契約が建物賃貸借契約です。建物を借りて使用する者を「賃借人」と呼び、建物を貸して使用させる者を「賃貸人」と呼びます。何らかの目的で建物を借りて使用する場合、賃借人はどのような法的義務を負うでしょうか?

賃借人は建物を使用する対価として賃料と呼ばれる金銭を賃貸人に支払う義務を負うのですが、実は賃借人が負う義務はこれだけではありません。賃貸借契約は数か月から数年にわたって長期間継続する契約ですので、契約を締結した後も様々なことが起こります。雨漏りが起こって建物の使用に支障が生じるかもしれません。住居として借りた建物の一室でお店を開きたいと考えるかもしれません。友人を呼んでパーティーをした時に壁紙にワインをこぼしてしまうかもしれません。使っていない部屋を友人に貸してお小遣い程度の賃料を払ってもらおうと考えるかもしれません。

賃借人は建物を使用する権利を有するといっても、あくまで他人が所有する建物ですから、何をやってもいいわけではありません。しかし、やって良いことと悪いことの区別が分からないと、どうすればよいか判断できず困ってしまいます。場合によっては、何気なく行った行為が原因で賃貸人から立退き通知を送られて賃貸借契約を解除されたり、賃貸人から損害賠償を請求されるかもしれません。建物賃貸借契約書を作成して賃借人の義務を明確に記載しておけば、このような事態を回避することができます。

賃料の支払

賃借人は、建物を使用する対価として、賃貸人に対して賃料を支払う義務を負います。賃料を支払う時期とその金額は、賃貸借契約書で規定される最も基本的な事項です。賃料は毎月支払うこととされる場合が多いですが、週払いや年払いとすることもあります。また、賃料を毎月払いと決めた場合でも、月初に先払いするのか、月末に後払いするのか、という点も明確にしておかなければなりません。多くの賃貸借契約書では、その月の賃料を前月末または当月初めに先払いすると規定されていますが、支払時期は賃貸借契約書で自由に規定することができます。賃料の支払が遅延した場合、賃貸人は賃借人に対して賃料支払催告をしますが、それでも支払わないときは、賃貸人は賃貸人に対して立退き通知をして賃貸借契約が解除されることになりますので、注意が必要です。

敷金

賃借人は、敷金と呼ばれる金銭を賃貸人に預けることが一般的です。敷金は、賃借人による賃料不払いや、賃借人の過失により建物が破損した場合の修繕費用等を担保する趣旨で、賃貸人が預かる金銭です。賃貸借契約が終了して賃借人が賃貸人に建物を明け渡した後、賃貸人は、賃借人による賃料不払や修繕費用などがなければ敷金全額を、あればその金額を差し引いた金額を、賃借人に返還しなければなりません。ただし、賃貸借契約によっては、物件明渡時のクリーニング代等としてあらかじめ一定額を敷金から差し引く旨が規定されている場合がありますので注意が必要です。

建物の使用

賃借人は、契約で決められた用法に従って建物を使用しなければなりません。通常、賃貸借契約書ではその用法を詳細に定めます。住居としての賃貸であればそこを事務所や店舗として使用することはできません。事務所や店舗としての賃貸であれば、そこで寝泊まりして居住することはできません。賃貸借契約書では、住居か事務所か店舗かといった主要な用途の他にも、ペットの飼育を認めるかどうか、楽器の演奏を認めるかどうかなど、詳細な禁止事項を規定することがあります。賃借人としては、禁止事項をよく読んで違反しないように建物を使用することが必要です。

建物の管理

賃借人は、借りた建物を使用することができますが、あくまで他人が所有する建物ですので、建物を壊したり汚したりといった不適切な使用は許されません。法律上又は契約上、賃借人は借りた建物を「善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)」をもって保管・管理しなければなりません。具体的には、定期的に掃除をする、液体をこぼしたら拭き取る、台風の時は窓を閉める、家具の錆びやキッチンの油汚れ等が壁に付着したら放置せずに取り除くとともに予防措置を講じる、等が考えられます。賃借人が善管注意義務を怠った結果として建物に破損や除去できないほどの汚れが生じた場合は、賃借人は、賃借人の費用負担で現状回復をする義務を負います

建物の破損

建物が破損すると、賃借人は建物を十分に使用することができなくなります。建物の破損を発見した場合、賃借人はどうすべきでしょうか?

その破損が賃借人の過失や善管注意義務違反により生じた場合は、賃借人はその破損を自らの費用負担で修繕しなければなりません。他方、経年劣化・自然現象・事故など、賃借人の過失や善管注意義務違反とは無関係に生じた破損については、賃貸人が修繕義務を負うのが原則です。なぜなら、賃貸人は賃借人に対して建物を使用させる義務を負っており、建物が破損した状態では建物を使用させる義務を十分に果たしているとはいえないからです。

賃貸人が修繕義務を負っているとはいえ、建物を使用していない賃貸人が破損に気づくことはあまりなく、建物を使用している賃借人が先に破損に気づくのが通常です。賃借人は、建物が破損して修理が必要な場合、その旨を遅滞なく賃貸人に通知しなければなりません。破損を放置すると破損がさらに悪化し、損害が拡大するためです。賃借人が賃貸人に破損を通知しなかったために損害が拡大した場合、賃借人が損害賠償義務を負う可能性がありますので、破損を発見したら必ず賃貸人に通知をして修繕してもらいましょう。通知は、賃借人が賃貸人に対して建物修繕請求書を交付することにより行うことができます。

転貸、賃借権の譲渡

賃借人は、借りた建物の中にあまり使わない部屋があったため、これを知人に貸して少しの賃料をもらおうと考えました。このように、借りた物件の全部又は一部をさらに第三者に貸すことを、「転貸」といいます(転貸のことをサブリースとも言います。サブリース契約書の書式はこちら)。

賃借人は、急遽海外に転勤することになったため、自分の代わりに知人をこの建物の賃借人にして、自分は賃貸借契約から離脱しようと考えました。このように、賃借人が有する賃借権を第三者に譲渡して、自らは契約関係から離脱することを「賃借権の譲渡」といいます。

賃貸借契約が長期間継続する場合、賃借人の身の回りにも様々な変化が生じ、転貸や賃借権の譲渡を行いたいと考えることは珍しいことではありません。しかし、賃貸人は、その賃借人を信頼して建物を貸したのであって、見知らぬ第三者が建物を使用することには不安を感じたり、納得できない場合も多いでしょう。このような理由から、原則として、賃貸人の同意がない限り転貸や賃借権の譲渡は認められません。このため、もし転貸や賃借権の譲渡を予定して賃貸借契約を締結する場合(例えば、賃借人が建物を一棟借りしてそれを部屋ごとに区切って多数の第三者に転貸する事業(サブリース)を行おうと考えている場合など)、その旨を賃貸借契約に記載しておく必要があります。

賃貸借契約書に転貸または賃借権譲渡を承諾する旨が記載されていない場合、賃借人は転貸の承諾書または賃借権譲渡の承諾書を作成して賃貸人から署名・押印をもらうことにより、事前に承諾を得る必要があります。

期間中の中途解約

5年間という期間を定めて建物賃貸借契約を締結したが、2年が経過したときに賃借人が転居したいと考えました。この時、賃借人は期間満了前であるにも関わらず賃貸借契約を解約することができるでしょうか?

このような状況はしばしば発生します。原則として、期間を定めた賃貸借においては、期間満了前に賃借人から賃貸借契約を解約することができません。その結果、賃借人は期間満了までその建物を借り続けて賃料を支払い続けなければならないことになります。使用しなくなった建物を借り続けるという状態は賃借人にとって酷ですので、多くの賃貸借契約書では一定の条件を満たした場合に賃借人からの期間満了前の中途解約を認める条項が規定されます。例えば、6か月前までに賃貸人に通知(賃貸借契約解約通知書)をすれば中途解約を認めるとか、中途解約は認めるが敷金は没収する、等の条項です。賃借人にとって非常に大切な条項ですので、中途解約を認めるかどうか、認める場合はどのような条件で認めるのかを、賃貸借契約に明確に規定する必要があります。

契約終了時の原状回復

賃貸借契約が終了したときは、賃借人は賃貸人に対して建物を返還しなければなりません。建物に、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反・通常の範囲を超える使用などにより生じた損耗・毀損がある場合、賃借人は自ら費用を負担してこれらを回復してから建物を賃貸人に返還しなければなりません。これを賃借人の原状回復義務と呼びます。ところが実際は、建物を返還する際にその損耗・破損が賃借人の原状回復義務の範囲内かどうかが明確でない場合があります。この問題は、賃貸人と賃借人のどちらが修繕・清掃の費用を負担をするかという金銭支出に直結する問題であるため、トラブルになりやすい点です。例えば壁の釘穴・ネジ穴の修復、窓から吹き込んだ雨によりできたシミを原因とする壁紙の張替え、家具設置により凹んだフローリングの修繕など、想定できる損耗・破損を賃貸借契約書に列挙して、それぞれ賃貸人と賃借人のどちらが回復・修繕の義務を負うかを明示しておけば、将来のトラブルを防止することができます

このように、建物賃貸借契約書を作成して詳細な条項を規定することで、多くのトラブルを防止することができます。

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